例えば、
所定労働時間を8時間としている会社の従業員が、職場外で仕事(直行直帰)をし労働時間を算定し難いとき、実際に行動していた時間が、8時間より少なく(又は多く)ても、8時間働いたものとみなされます。
この事業場外みなし労働時間制について労使間の争いがあり、平成26年1月24日に判決が出ましたのでご案内します。
判例案内
事件名:残業代等請求事件(阪急トラベルサポート割増賃金請求)
企画旅行の添乗業務に従事していた派遣労働者が、時間外割増賃金等の支払を求めた事案。会社側は、労働基準法38条の2第1項(このページ後半に掲載)の「労働時間を算定し難いとき」に当たるとして所定労働時間労働したものとみなされると主張。
業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等を鑑みて「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとされました(→割増賃金の支払い発生)。
事件番号:平成24(受)1475
事件名:残業代等請求事件
裁判年月日:平成26年1月24日
法廷名:最高裁判所第二小法廷 判決
- 残業代等請求事件(平成26年01月24日最高裁判所第二小法廷判決)
上記PDFから一部抜粋
- 労働者は、ツアーの実施期間を雇用期間と定めて雇用され、添乗員として派遣されて、添乗業務に従事。
- 派遣社員就業条件明示書の就業時間…原則として午前8時から午後8時までとするが、実際の始業時刻、終業時刻及び休憩時間については派遣先の定めによる旨の記載。
- ツアーの日程表には、最初の出発地、最終の到着地、観光地等の目的地、その間の運送機関及びそれらに係る出発時刻、到着時刻、所要時間等が記載されている。
- ツアーの開始前に、添乗員に対し、会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに、添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し、これらに従った業務を行うことを命じている。
- 会社は、添乗員に対し、国際電話用の携帯電話を貸与し、常にその電源を入れておくものとした上、添乗日報を作成し提出することも指示。
- 旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは、必要最小限の範囲において旅行日程を変更することがあり、添乗員の判断でその変更の業務を行うこともあるが、旅行日程の変更が必要となったときは、会社の営業担当者宛てに報告して指示を受けることが求められている。
- 添乗業務は、会社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており、その旅行日程につき、添乗員は、変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように、また、それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。
- 添乗業務は、旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、業務の内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。
- 添乗日報には、行程に沿って最初の出発地、運送機関の発着地、観光地等の目的地、最終の到着地及びそれらに係る出発時刻、到着時刻等を正確かつ詳細に記載し、各施設の状況や食事の内容等も記載するものとされており、添乗日報の記載内容は、添乗員の旅程の管理等の状況を具体的に把握することができるものとなっている。
- 業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、会社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等に鑑みると、添乗業務については、これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く、労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。
判例の案内は以上です。
携帯電話による随時の業務指示(注:携帯電話を持たせていることだけを理由にしてみなし労働時間制の対象外とされるわけではありません)や、業務終了報告・日報その他で時間管理が可能にもかかわらず、事業場外のみなし労働時間制を適用しているときは、今回の事案のように後から割増賃金の支払いを請求される可能性があります。
職場で事業場外みなし労働時間を適用されている会社の方、業務指示や管理の実態を再確認し、適切な運用(実際に労働時間を算定し難いのであれば、みなし労働時間制採用で構いませんが、算定可能であれば、労働時間に応じた割増賃金支払い)を行っていきましょう。
念のため、事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるケース・ならないケースについて触れた通達(昭和63年1月1日 基発1号)を後述しますね。
条文
労働基準法第38条の2 第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。 ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
通達(昭和63年1月1日 基発1号)
事業場外労働に関するみなし労働時間制
イ 趣旨
事業場外で労働する場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務が増加していることに対応して、当該業務における労働時間の算定が適切に行われるように法制度を整備したものであること。
ロ 事業場外労働の範囲
事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。
[1] 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
[2] 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
[3] 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合
参考情報
関連情報:在宅勤務について
在宅勤務を導入している会社で労働時間管理に「みなし労働時間」を用いている場合、今回の判例のように「労働時間を算定し難い」かどうかが労使間トラブルの争点になることもあり得ます。現在の勤怠管理の方法や賃金支払い方法をこの機会に見直しておきましょう。
ガイドラインその他の情報をアップします。
- 情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドラインの改訂について(厚生労働省WEB)平成20年7月28日 基発第0728001号等